カムイは常に穏やかな猫だった。鳴き声もかわいらしい感じで。

そんなカムイが亡くなる前夜(深夜)に咆哮をあげた。これには少々うろたえてしまった。
「カムイ、大丈夫、大丈夫、落ち着け」と抱っこしても、腕から抜け出そうとして暴れた。
「これはカムイじゃない」と思ってしまったほど普段のカムイと異なる様子だった。
悪い飼い主かもしれないが、この様子を見て「もうだめかも…」と思ってしまった。

ただ、この日の朝に出かける時は、カムイはちょこねんとお気に入りに椅子に座って主を見送ってくれたのだ。
「いつものように今日も元気で再開しような」と別れた同じ日の姿とは思えなかった。
自分のいない日中に一体何が起きたのか今となっては知る由もない。
確かにその頃、カムイの老いは感じていた。
数カ月前には人の腰ほどの高さのキッチンシンクの上まで飛びあげるほどの脚力があったのに、この頃は低いところから飛び降りる時も目測を誤ったりしていた。
とはいえである。この豹変は唐突すぎた。
その晩、カムイは夢遊病者のように、室内をうろうろと歩き回った。まるで認知症の老人のように…
抱っこしても、嫌がって腕から脱してまたうろうろと歩き回って、冷蔵庫やテレビの裏などホコリの多いところにも平気で入り込んでしまう。
もしかして、目が見えていない?と思う節すらあった。
「カムイがずっとこんなだったらどうしよう…」と思ってしまったことは否定しない。
そこで無理やりにでも抱きかかえ、腕の中でなだめていた時に、咆哮をあげたのだ。
それはもう深夜1時とか2時の頃だったように記憶している。

カムイを抱いたまま寝室のベッドに移動し、自分の胸の中で一緒に寝た。
最初は毛布の中からも脱出しようと試みたカムイだったが、次第にその力と気力も失せたようで大人しくなった。
いつしか自分も眠ってしまい朝がきた。
カムイは胸の中にいてまだ生きていた。
しかし、もはやベッドから降りる気力もなく虫の息になっていた。
それからカムイが息を引き取るのに時間はかからなかった。
「俺が起きるまで生きていてくれたんだね、ありがとう」
そう伝えてはみたものの、まだ実感も何もわかない。
ただ、息を引き取ったばかりのカムイを抱き上げると、だらりとして何の抵抗もない。
一度たりともカムイの嫌がることをしたことはないが、この時は少しカムイの体をゆらゆら揺らした。
それでも一切の反応はない。。。
「生きているもの」と「死んでいるもの」の差がここまで明確だとは…とその死を受け止めたのだった。

後日、友人が愛犬を亡くした時に、老犬ホームの方に聞いた話によると、犬や猫は衰えてくると自らの死期を悟り、最期が近づくと、自分で逝く決断をするのだという。そのために、最後のエネルギーを消化させようと激しく鳴いたり吠えたりして最後を迎えるのだそうだ。
きっとカムイの前夜の咆哮がそれだったのかもしれない。
「認知症になってずっと室内をうろうろしちゃったらどうしよう…」などと一度は思ってしまったが、それでも生きていてくれた方が良かったことに違いはない。そうなれば家にいなければいけないから、腐れ縁となっている会社を辞める決断にもなったかもしれない。
ただ、カムイは一切の迷惑を掛けずに逝った。
前日まで普段と変わらぬ様子で飼い主と戯れ、ほんの一時、飼い主をうろたえさせはしたものの、自ら覚悟の咆哮をあげてパッと逝った。

潔いピンピンコロリの生きざま、死にざまであった。
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maruoさん
いちばん辛いことを書いてくださり、なんといっていいかわからず、読み返すと泣きそうになるので少し時間をください。
- 2022/11/13(Sun) 12:51:16 |
- URL |
- リンリンさん #-
- [ 編集 ]
自分が実家の猫を看取った時を思い出してしまいました。辛い、本当にお辛かったでしょう。自分の場合、帰宅時に亡くなっていたほうがつらかったと自分を納得させました。来世での再会を、お互い楽しみに生きていけたら、と思います。乱文申し訳ありませんでした。
- 2022/11/18(Fri) 22:01:08 |
- URL |
- 独身もうすぐ60のおっさんです。 #-
- [ 編集 ]
ぴんぴんころりでも、大往生でも、自宅で看取れることができても、辛いことには変わりないですね…。
悲しいのに書いてくれてありがとうございます。
- 2022/11/20(Sun) 20:35:31 |
- URL |
- かめきち #-
- [ 編集 ]